東小雪が思う

あなたは悪くない

羽生結弦選手のことは、全世界が注目しました。普段、スポーツを見ない私でさえ、テレビの前で涙しました。なんで? よりによってどうしてそんなことが?

ファンの方や、もちろん羽生選手ご自身がどんなお気持ちでいらっしゃるかと思うと、本当にいたたまれなくなります。

“引き寄せの法則”や”言霊”というものがあります。”アファメーション”とか。

私はどちらかと言うとスピリチュアルなこと全般 は好きな方です。

ですが、長い人生、不慮の事故、身体的な病気、精神的な不調や病、仕事上の大変なトラブル、人間関係の困難に見舞われることは、多くの人が経験することです。

そうしたときに、
・あなたの考え方が悪いからこうなった
・あなたが引き寄せた結果が現実として起こっている
・言霊はこわいから、そんなことを言ってはいけない

などと、苦しんでいる人を責めないでほしいと思うのです。

話す(はなす)ことが「手放す(
てばなす)」ことになる場合も多くありますし、吐き出さないで我慢を強いることが余計に悪い結果をもたらすこともあり得ます。

羽生結弦選手がインタビューで「報われない」と言ったことが、胸に残りました。

スポーツ選手も舞台人も、イメージトレーニングをするし、本番の成功を強く強く祈ります。
氷や舞台上を、入念に確認することもプロなら絶対に怠りません。

それでも、どれだけ努力を重ねても、人知れず苦労しても、残酷なことですが、報われないことはいくらでもあります。

宝塚時代、「本科生の頃に予科性をいじめた本科生は、初舞台中に大階段から落ちる」というジンクス(?)が、まことしやかにささやかれ、18歳だった私はそれを心の支えにして耐えていました。が、もちろんそんなことは起こりません。

むしろ、なんであの人が? という方が怪我や故障、配役に悩まされたり、また、なんであなたが?という人がトントン拍子に出世していくのも見てきました。

そういうものです。

順調にいっているとき、あとひと押しが必要なとき、スピリチュアルなことや法則を使って自分を鼓舞することは、とってもいいと思います。

でも、現在進行形でしんどい人には、どうか良かれと思っても、気をつけてあげてほしいと思います。

心理療法には、「認知行動療法」とあうものがありますが、あれも別に「あなたの認知が悪いから治そう」とか「あなたの認知が悪いから病気になった」とか、そういうことではありません。

病気や不幸には、本当に、それこそ人間には理解できないような計り知れないさまざまな要因が複雑に絡み合って、単純に「あんたがそんなんだからこうなった」とは言えないはずです。

特に、ご病気の方や、不妊などで悩まれている方を責めるような言説が多く、ぜひお伝えしたいと思いました。

・赤ちゃんはお空からママを探しているから、見つけてもらってね

というものがありますが、それで安心できる人はそうすればいいと思います。

でも、例えば不妊治療中で情緒不安定になるのは、ホルモンバランスの変化のなせる技ですから

・そんなんだからこわくて赤ちゃん来られない

などと声がけするのは絶対にダメですし、ご本人もそんなふうに捉えないでください。

私は「お空からママを見つけて」無事に産まれてきましたが、水も飲ませてもらえないほどのネグレクトに遭い、実父からは風呂場で性的虐待を受けて育っています。そんなパパ、ママのおなかにも、残念ながら胎児は宿ります。関係ありません。もし、お空から選択し直せるなら、強姦の被害と情緒不安定だったら、仮にその2択しかなくても、どう考えたって後者を選択するでしょう。

命が宿ることは確かに奇跡の連続だと思います。でも、宿らないからといってあなたが悪いわけではありません。関係ありません。

私はまだ歳若い頃、「ママを選んできた」系の絵本に、ずいぶん傷つきました。それで幸せになれる人は、その確率の低さと、有難さを、ご家族で喜んでくれたらそれでいいし、それが当てはまらない人も実際にはたくさんいらして、でも、その人たちは何も悪くありません。

自分を鼓舞するために、占いやスピリチュアルを使うのはよいと思います。でも占いもスピリチュアル、引き寄せの法則も、他者を責めるためのものではないはずです。

私は元来、真面目な性質で、全てのことを真に受けてしまい、軽く受け流せないところがあります。

自分が人生の中で辛く苦しいときに、「こんなひどいことが起こるのも自分のせいだ」「自分が蒔いた種なのではないか」と、責め苛まれ、余計にメンタルが悪化することがよくありました。

違います。

あなたは悪くありません。

なんでかわからないけど不幸に見舞われることも、逆にあんなやつがどうしてのうのうと? ということも、そんな不条理含めて人生だと思います。

調子が悪いとき、頑張っても結果が出ないとき、そんなこともあります。あなたは悪くありません。

どうか、スピリチュアルや目に見えない運不運は、前提として多少なりとも心持ちが明るいときに、自分に有効な場合のみ使ってください。無理しないでほしいと思います。

例えば下痢して脂汗をかいているときに、「ああ清潔な便器とトイレットペーパーがあってよかった!ありがとう!」と思わなくていいです。無理です。
痛い、出切れ、治れ、苦しい、正露丸飲んじゃおうかな…で、いいと思います。

コロナ禍になり、余計に、難病、不妊治療、希死念慮を抱えているかもしれない人への声がけで、気になることが多くなり、お伝えさせていただきました。(新型コロナウイルスに感染し、後遺症が残り、でも周囲にコロナ後遺症を信じてもらえず、自死なさった方がいます。疾患そのものは死に至りませんが、適切な心理支援は喫緊の課題だと思います。ちなみにコロナ後遺症は、そんな哀しいことがあってから、やっと、現在のICD-10に記載されました。)

ABOUT ME
東 小雪
◯公認心理師 / LGBTアクティビスト / 元タカラジェンヌ◯東京ディズニーシーで初の同性結婚式を挙げ、日本初の同性パートナーシップ証明書を取得し話題に。LGBT・女性の生き方などのテーマを中心に講演やメディアに多数出演。著書『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』『レズビアン的結婚生活』等 現在、フォトジャーナリスト安田菜津紀とのYouTube番組「生きづらいあなたへ」を配信中。

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